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福岡高等裁判所 昭和43年(行ス)1号 決定 1970年9月17日

抗告人(被申立人) 飯塚公共職業安定所長

訴訟代理人 島村芳見 外六名

相手方(申立人) 竹平俊夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

第一、抗告人は「原決定を取消す。本件申立を却下する。申立費用及び抗告費用は、全部相手方の負担とする。」との決定を求め、その理由として次の通り陳述した。

一、相手方に対する本件紹介対象者除外決定は、抗告訴訟による取消の対象とはならないから本件執行停止申立も理由がない。

原決定は本件紹介対象者除外決定の性質を誤解しこれをもつて行政事件訴訟法(以下行訴法という)第三条二項に定める「公権力の行使に当たる行為」に該当すると判断した。しかし乍ら、緊急失業対策法(以下失対法という)第一〇条第一、二項は、同所定の失業者就労事業(以下失対事業という)の制度・目的に照らして、これにより紹介され、雇用されるべき者の範囲を制約したにすぎず、他に失対事業に対する紹介を、一般の職業紹介と別異に解すべき根拠となる法令はない。

しからば、失対事業への紹介も、抗告人の為す一般の職業紹介と同じく、就労機会の供与というサービス行政の一つで、非権力的な事実行為にすぎず、行政庁が法の認めた優越的地位にもとづいて法の執行として行う権力的な意思活動ではない。

抗告人が公共職業安定所長(以下安定所長という)として、諸般の事情を綜合して行う紹介適格存否の判断、ないし紹介行為は、とりわけ、技術的・専門的かつ裁量的なものであるし、他方失業者は安定所を利用し就労の機会を得るに止まり、これを超えて安定所長に自己の希望する就職や就労紹介を請求し得る具体的権利を有するわけではない。よつて抗告人は失業者の希望にかかわらず、適格性なしと判断すれば就労紹介を拒否しなければならない。

そうだとすれば、失対事業への適格性がないと判断した場合、抗告人が就労紹介を拒否したとしても、失業者の法律上の地位には何等影響がなく、よつて本件除外決定は抗告訴訟の対象にはならないからその執行停止を行う余地もない。

二、仮りに本件除外決定が抗告訴訟の対象になるとしても、執行停止の対象にはならない。

行訴法第二五条所定の執行停止制度は、行政処分について執行不停止の原則を貫くときは、その取消を求める国民が行政訴訟を提起し勝訴したとしても実質的な救済を得られなくなることがあり、酷な結果を生ずるおそれがあるからこれを防止する為めに設けられている。

従つて行政庁の為した行為が、被処分者に作為・不作為を命じ、若しくはその現在の法律状態に変更を加えるような積極的な効果を有するときは執行停止制度が妥当するが、そうでないときは執行停止をなすべき余地がないといわなければならない。原審は抗告訴訟の対象となることがあつても執行停止には親しまない行政処分があることを看過している。

本件についてこれをみるに、本件除外決定は相手方の日々の失対事業への就労紹介申込に対し、抗告人が適格性を欠くものと判断した結果日々紹介をしないということを定めた(紹介拒否)ものであつて、解雇等と異り、相手方の現在の法律関係に何等積極的な効果を及ぼすものではない。このことと、執行停止は元来当該行政処分が為されなかつた状態におけば足るとするもので、行政庁に更に積極的な処分を命ずるものではないことを考えあわせると、本件除外決定の効力を停止したところで相手方にとつて何等実質的な利益はないといわなければならない。即ち、本件除外決定の効力を停止したとしても抗告人が相手方を特定の失対事業に紹介すべき義務を負うわけはなく、いわんや相手方が抗告人の紹介なくして特定の失対事業に就労し得ることにはならないからである。

よつて原決定は失当である。

三、相手方には行訴法第二五条二項に定める執行停止を求める緊急の必要性がない。

即ち、同条項は、執行停止の要件として「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」と定めているが、これは旧行政事件訴訟特例法第一〇条の「償うことのできない損害をさけるため緊急の必要があるとき」という規定を改めたものである。そうして行訴法は旧法の制限を緩和してはいるが、当該処分により蒙るべき損害が金銭賠償不能ないし原状回復不能であるか、若しくは社会通念上回復が容易でないと判断される程度のものであることを要すると解される。

本件についてこれをみるに、

(イ)  相手方は、本件除外決定後、これまで失対事業に就労して得ていたと同額の救済資金(返済不要)を得ている。

(ロ)  しかも紹介拒否は前記失対事業についてだけであつて、安定所に出頭して通常の求職申込をすれば、常用雇用はもとより公共・民間事業の日雇求人に紹介を受けることができる。

(ハ)  相手方の居住地区は失対法第一〇条三項にいう就職の著しく困難な地区に指定されているが、それは常用雇用についてであつて、鉱害復旧事業等の関係から公共・民間の事業の日雇求人は決して少い方ではない。

相手方は肉体的にも環境的にもこれら事業の日雇求人に紹介され就労し得る条件を具備し、他の失業者に対する紹介実績に照らすと一日平均一、〇〇〇円の賃金で月平均二〇日位就労することは充分に可能であるし、失対事業の賃金は一日七一〇円であるから、失対事業に就労するよりむしろ増収となる可能性もある。

しかるに相手方は本件除外決定に対し、通常の就労紹介を受けることができる旨説明されながら一度も求職の為めに出頭していないのである。

前記の各事情を検討すれば相手方には執行停止を求めるに必要な緊急の必要性の要件を欠き、原決定はこの点からみても失当である。

四、本件除外決定は適法であり、本件抗告訴訟はその本案についても理由がない。その詳細は本決定添付の別紙(一)に記載の通りである。

第二、相手方は抗告理由に対し次の通り答弁した。

一、国の機関であり行政庁である抗告人に対し職業紹介を請求し得ることは憲法に基くか職業安定法に基くかは別として国民の有する法律上の地位であり、失対事業への就労紹介を請求し得ることは失対法上の法定要件を備えた失業者に認められた法律上の地位にほかならない。

本件除外決定は、抗告人が法令の執行として相手方の有する右法律上の地位を否定し不定期間失対事業への紹介を拒否した処分であるから「公権力の行使に当たる行為」に該当し、抗告訴訟による取消の対象となる。

二、本件除外決定は単に抗告人が相手方を日々紹介する適格を欠くものと認めて日々紹介しないことを決定したというに止まらず、爾後相手方を紹介することを拒否したのである。よつて、「本件除外決定は相手方の日々の失対事業への就労申込に対し、適格性を欠くと判断して日々紹介しない旨を決定したにすぎず、相手方に対し作為・不作為を命じ、若しくはその現在の法律状態に変更を加える如き積極的な効果を生じていないから執行停止の余地がない。」という抗告人の主張は、その前提条件を欠き、理由がないものである。

三、相手方には、回復の困難な損害を避ける為め、本件執行停止を求める緊急な必要がある。

(イ)  相手方は本件除外決定後、全日本自由労働組合(以下全日自労と略称)から犠牲者救済金を支給されている。しかしこれは生活の困窮を救うため止むを得ない臨時的・応急的措置にすぎずこれを理由に法的救済を否定するのは本末顛倒の議論である。

(ロ)  また、相手方は、就職促進の措置(失対法第一〇条二項、職業安定法第二七条一項、第二六条参照)を受け終つた後も、誠実熱心に求職活動をしたのに常用雇用はもとより、民間・公共の事業の日雇の職も得られなかつたので、抗告人が失対事業紹介の適格を認めたのである。

(ハ)  飯塚公共職業安定所管内においては、昭和四三年以降日雇の仕事にすらあぶれて日雇労働者失業保険金の支給を受ける労働者が絶えたことがなく、就職促進の措置を受け終つてなお就職できずに新たに失対事業紹介対象者に認定された労働者も多数存在する。そのような事情のもとで独り相手方のみ月間平均二〇日も就労し得るというのは暴論である。

抗告人主張の月平均二〇日の就労とは、現に就労している工事の継続中のことであつて、一旦その工事が終了すれば、次の新規工事がはじまるまで通常一、二カ月のあぶれは覚悟しなければならないのである。公共・民間の日雇仕事がこのように不安定であるから、それだけで生計を樹てている者はなく、農業、失対事業その他頼れる就労を背景として日雇にも出るという就労構造をとつているのである。

以上の諸点を考えると、たとえ相手方という特定の個人についてであるにせよ、毎日四、〇〇〇人以上もの失対事業紹介対象者を紹介している飯塚職業安定所管内で、日雇に出られるから失対事業紹介は不要という議論は成り立たないといわなければならない。

四、本案につき理由がないとする抗告人の主張に対する答弁は、本決定添付の別紙(二)、(三)に記載の通りである。

第三、当裁判所の判断

抗告人のなした本件紹介対象者除外決定が行訴法第三条二項の「公権力の行使にあたる行為」に該当しないし、仮りに該当するとしても同法第二五条所定の執行停止の対象とはならないとする抗告人の主張について。

この点については、当裁判所も本件記録中の疎明資料によつて左記を付加するほか原決定七枚目裏七行目から一〇枚目表一一行目までに説示されているところと同一の判断をするのでこれをここに引用する。

(一)  本件失対事業に対する紹介が一般の職業紹介と同じく一つのサービス提供であるという面は否定できないにしても、失対事業に対する紹介にあつては前記原決定説示の如く事務運用上の便宜からとはいえ前記職業安定局長通達に基づく「認定」制度を採用しその「認定」を経ない限り、失業者は失対事業という法律制度の上で認められた最終の就労の機会を付与されないことになり、逆に抗告人の側からいえば特定の失業者についてかかる「認定」を拒否し、あるいは一旦「認定」をしていたものを除外することによつて実質的には失対事業就労資格の付与を拒否しあるいは付与されていた資格を剥奪することになる(その個々の「認定」拒否ないし除外の当否は別として)と云わざるを得ない。

(二)  してみると、職業安定法上抗告人の為す就労紹介が、元来日々紹介であり失対事業紹介適格者の認定が現実の事務処理上の要請から出た行政内部の取り扱いにすぎず、特段の法令上の根拠に基づかないものであるにしても、行政庁たる抗告人が、失対法第一〇条に定める唯一の紹介機関(但し同条第一項に定める技術者、技能者、監督者等の場合を除く)として為した本件除外決定は公権力性を有し、それによつて受ける相手方の不利益は法的な不利益であると解するを相当とする。

よつて、本件除外決定をもつて行訴法第三条第二項の「公権力の行使に当たる行為」と解し抗告訴訟及び執行停止申立の対象となりうるとした原決定は相当である。抗告人の主張は理由がない。

第四、相手方には執行停止を求める緊急の必要性がないという抗告人の主張について。

この点についても当裁判所は左記を付加するほか原決定一三枚目裏二行目から一二行目までに説示されているところと同一の判断をするのでこれをここに引用する。

(イ)  救済資金について。原審相手方審尋の結果によれば、相手方はその属する全日自労から救援規定に基づく返済不要の救援金(賃金相当額)を得ていることは明らかであるが、これはその救援金の趣旨からみても、本件除外決定による失対事業就労不能の間の臨時・応急の給付金にすぎず、相手方主張の如くこの給付金を得ていることをもつて緊急の必要性がないとすることはできない。

(ロ)  通常の紹介を受け得ることについて。前記相手方審尋の結果、疏乙第三五号証によれば本件除外決定後相手方が通常の職業紹介を抗告人に求めた事実がないばかりか、抗告人の行う通常の職業紹介を拒否した事実さえ認められる。しかし元来相手方は抗告人より一旦は失対法第一〇条二項の要件に適合すると認められた失対事業紹介適格者であり、前掲疏明資料によれば右の紹介拒否も原決定のなされた後、相手方において、右決定の趣旨に従い抗告人に対し失対事業への紹介を求めたところ、抗告人において通常の職業を紹介したため、相手方において之を拒否したものであり、これ等の事情と抗告人も認めているように相手方の居住地区が失対法第一〇条三項の「失業者が就職することが著しく困難である地域」に指定されていること、疏甲第一〇号証、疏乙第二八号証の一ないし六、第三五号証、疏甲第一六号証によれば相手方が通常の職業紹介を受ければすくなくとも日雇として就労する機会はあつたにしてもこれが常時保証されているとまでは認めるに足る疏明資料がないこと等の諸事実を考慮すれば通常の紹介を受けることができるというだけで行訴法第二五条二項に定める緊急の必要性がないとはいえない。

(ハ)  抗告人は、相手方が失対事業に就労しなくても通常の公共民間の日雇に就労すればむしろ失対事業に就労するよりも増収となる可能性があると主張するが、その就労が常時保証されていることまでを認めるに足る疏明資料がないことは前記の通りであり、ただ通常の日雇に就労する機会があるということで前記緊急の必要性を否定し得ないことは前述の通りである。

第五、いわゆる本案の理由の有無について。

行訴法第二五条三項によれば執行停止は本案につき理由がないと見えるときはすることができないことは明らかである。

しかしながら相手方が本件除外決定の取消を求める本案が右の「理由がないと見えるとき」に該当しないと判断されることについて、当裁判所も左記を付加訂正するほか疎明資料により原決定一〇枚目表一二行目から一三枚目裏一行目までに説示されているところと同一の判断をするのでこれをここに引用する。(但し原決定一三枚目表二行目「前項四・1、2、」の次に「3、4、」を加える)。

一、(イ) 原決定一一枚目表一一行目と一二行目の記載を「疏乙第三四号証によれば、相手方が昭和四一年二月五日飯塚土木事務所で他の全日自労福岡県支部飯塚分会員等と共に当時の同県飯塚土木部次長小川彌に対し鎮西現場小屋設置撤回を要求中その腕をつかみ、あごを突き上げる等の暴行を加えた事実が疏明される。」と改める。

(ロ) 原決定一一枚目裏四行目の「が、右傷害」以下六行目までを「そうして疏乙第二三号証、第三二号証によれば右傷害の原因は全日自労を脱退して飯塚日雇労働組合に加入し婦人部長をしていた川崎ミツヱが相手方の情宣内容に質問しようとしたことから口論となり、相手方は右川崎ミツヱの胸を突きとばして転倒させたことによる(但し両側肢鼠蹊部挫傷の成因は疏明がない)ことが疏明される。」と改める。

二、失対流入闘争について。

疏乙第三六号証の一ないし三、同第三七号証の一ないし七、疏甲第一六号証、原審相手方審尋の結果を綜合すると相手方が全日自労飯塚分会長として、当時一般の失業者、生活保護受給者、低収入労働者、家庭の主婦等に全日自労への加入と失対事業就労要求参加を呼びかけ、他方公共職業安定所に対しては集団陳情を指導して就職促進措置の認定や失対事業就労の要求を行つた事実が認められる。

三、しかしながら「本案につき理由がないと見えるとき」とは、本件相手方の本案の申立(本件認定除外決定取消の訴)が主張自体理由なしとして棄却されるような場合か、抗告人が右処分が適法・有効であることを十分に疏明したような場合をいうと解されるところ、全疏明資料を検討してもいまだそのような事実は認められない。してみると行訴法第二五条二項により本件認定除外決定の効力を停止した原決定は相当で本件抗告は理由がないから棄却を免れない。そこで抗告費用は抗告人に負担させることとし主文の通り決定する。

(裁判官 高次三吉 彌富春吉 岡野重信)

別紙(一)

本案で取消を求めている本件紹介対象者除外決定は何ら違法でない。したがつて本案について理由がない。

1、抗告人が相手方に対し本件紹介対象者除外決定をするにいたつたのは、相手方の長期間にわたる安定所における長時間の執拗かつ威迫的陳情及び職員に対する暴行等により同所の業務に重大な支障を与えたこと、その陳情に際し失業対策事業現場より正式の手続をとらず職場離脱したこと及び失対事業主体の職員または就労している労務者に暴行を加える等して失対事業の適正な管理運営を阻害した事等からみて相手方は失対事業に就労する適格者ではないと判断されたからである。

2、ところで、右安定所に対する長期にわたる陳情は、いわゆる失対流入闘争(全日本自由労働組合は求職闘争と称している)の一環としてなされたものである。失対流入闘争とは昭和三八年の失対法及び職業安定法の改正(「中高年令失業者等に対する就職促進の措置」が設けられた)により就職促進の実が挙つたことにより新らたに失対事業に就労してくる者の数が激減するとともに、すでに失対事業に就労していた者が多数常用雇用の職場へ就職したため、失対事業就労者数の減少が著しくなり、全日自労の組合員数の減少となつた。そこで、全日自労は組織拡大(闘争)のための方法の一つとして中小企業の低賃金所得者、行商人、家庭の主婦等に失対就労を呼びかけ(掘おこしと称している)民間の就労について紹介されにくい求職条件、身体条件を強調するよう指導して無理に失対事業への就労紹介を余儀なくさせ、これを全日自労に加入させんとするものである。そこで、これら全日自労の掘おこした者に対する就職促進の措置を早く受け終らせる必要が生じ、これらの者に対する就職促進の措置の認定を安定所にせまつて集団陳情活動を行なうのである。しかしながら、失対事業の制度の趣旨、目的は失業者に対し恒久的な就業の場を保障したものでなく、他に就業の機会のない失業者に対してその生活を支え、その労働力を保全するためとりあえず国又は地方公共団体が公費の負担で特別に事業を実施し、その失業者が他の職場に就くまでの一時的な就業の場を民間公共事業等にはたらく機会をえられない日々に与えんがためのものである。したがつて、民間企業の就職を放棄して失対事業に就労せんとしたり、民間企業に真に就職する意思のない家庭の主婦がパートタイマーとして働く場ではないのである。しかしながら安定所としては、多数の求職者に対して常用雇用に就かせるべく就職促進指導官の配置を増員して対処しているところである。しかるに相手方は全日自労飯塚分会委員長として安定所の説明には耳をかさず執拗にかつ威迫的陳情活動を指導し、安定所の業務に支障を与えているものである。しかも、相手方の陳情態度はいつも暴言をはき、威迫的であつた。しかしながらこれら失対事業に就労する失業者に接する安定所職員の心構として常に親切公正に対処する様心掛け、いやしくも軽侮したり蔑視したりするような事のないよう言葉の一言にも注意を払いサービス行政の本旨に則り対処するようかねて安定所長は職員の研修に努め、この精神を全職員に徹底的に認識させるため業間訓練の重要な項目としているところである。しかも暴行を受けた松本安定所次長は極めて円満な人格者でその交渉態度も右精神に沿うものであつた。

また、失対事業主体の関係職員に対する暴行も集団の威力をかりた一方的なものである。その交渉の要求内容は全日自労と意見の一致をみないまま飯塚土木事務所で勝手に就労現場配置転換(鎮西現場設置)を行なつたことの撤回及び同所への面着を拒み就労しなかつた一五名の賃金の保障(支払)等を求めるものであるが、久野管理課長の現場の問題は直接飯塚土木事務所長と話合われたい旨の回答に不満をもち、多衆の威力で同課長を威迫し暴行に及んだのである。その際、交渉に応じていた岩辺県土木部次長に対しても多衆の威力で賃金の保障を要求し七、五〇〇円を喝取し、さらに、同部長の意思に反するにもかかわらず、飯塚土木事務所長のとつた措置は適当でないから撤回を指導する趣旨外二項目について全日自労作成の書面に署名押印させているのである。そして、小川次長に対しては岩辺次長の約束が履行されないのは同人が反対するからであるとして、交渉話合に入る以前から同人に対し暴力を加えて交渉話合を混乱させ不成立としたものである。さらに、川崎ミツヱに対する暴行は同女ら全日自労組合員以外の者にも自己の情宣を聞くように呼びかけたうえ同女の所属する組合(飯塚日雇労働組合)を誹謗する発言をしたため、同女より質問をしたい旨の申入があるや、最初から喧嘩腰で質問を拒否した。そこで同女ら組合外の者(二〇名位)と相手方ら組合員(一五名位)との間に紛争の危険が感じられたので同女が質問を止めて就労現場へ出かけようとしたとき、後からいきなり同女の肩をつかみ一回転させて同女の胸を押して突き飛ばした。そのため同女は転倒し傷害を受けたものである。

3、さらに、相手方は前記のとおり紹介対象者から除外されて以後一度も安定所に求職(民間の常用雇用は勿論、公共事業の日雇求職にも)のため出頭したことはなく、本件執行停止決定後も安定所に出頭し先ず最初に失対事業への紹介を固執し、賃金のよい民間、公共事業への紹介を拒否している。これは、相手方が失対事業を一種の「定職」と考えていることを示すものである。

4、右の諸事実を綜合判断すれば、相手方は到底「誠実かつ熱心に求職活動をしているもの」とは解されず、仮りにそうでないとしても失対事業の適切な管理運営を図るためこれを裁量的に紹介対象者から除外しても条理上相当でなんら違法ではないというべきである。

別紙(二)

1、抗告人は、全日自労の求職斗争をわざわざ「失対流入斗争」と呼びかえて、この斗争が全日自労の組織拡大のための方法の一つで、全日自労が「掘おこし」た者に対する就職促進の措置を早く受け終らせるために、右措置の認定を安定所にせまつて集団陳情活動を行なうのであるなどと主張する。そして、失対事業とは、「民間企業の就職を放棄して失対事業に就労せんとしたり、民間企業に真に就職する意思のない家庭の主婦がパート・タイマーとして働く場ではないのである」などと、いかにも全日自労の「掘おこし」とか「失対流入」とかが不当な要求を押し通すものであるかのように言う。

けれども、全日自労が組織拡大のために努力することは当然のことであるし、また組織拡大又は掘おこしであろうとなかろうと、法律の定める要件をそなえた失業者が希望するならば就職促進の措置の認定をし、失対事業に紹介するが、そうでなければ認定や紹介をしないのは当然のことである。抗告状もさすがに明言していないが、昭和四二年七月二八日の集団陳情は決して措置の認定を要求したのでも措置を早く受け終らせることを要求したのでもない。逆に安定所が、同年六月二〇日頃から措置を受け終つた者に対する失対紹介をなかなかしなくなつたので(それまでは七日目には紹介していた)、日雇にもあぶれたこれらの人々が早く失対に紹介するよう要求して集団陳情をしたのである。これらの人々の要求はもちろん正当なものであつた。その要求を容れなかつた職安は自らの通達にすら違反して不当であつた。その証拠に、その当時失対紹介を拒否されていた全員が遅れながらも結局失対紹介を受けるに至つている。

しかも松本次長は、被抗告人から階段の途中で暴行を受けたというその直後に二階の次長室で被抗告人ら組合役員と交渉を続けたが、その時には被抗告人は「ころんで足をくじいた」とか「一二時過ぎで腹がへつたら足があがらずにつまづく」と言つただけで、被抗告人が押したとかは翌朝になつて中原労働課長がはじめて言い出したことである。

別紙(三)

一、本案について理由がないとの抗告人の主張について

1、昭和四一年二月二日の県土木部における団体交渉について

抗告人は、被抗告人等が久野管理課長に対し「多衆の威力で………威迫し暴行に及」び「その際交渉に応じていた岩辺県土木部次長に対しても多衆の威力で賃金の保障を要求し七、五〇〇円を喝取し、さらに同部長の意思に反するにもかかわらず………全日自労作成の書面に署名押印させている」などと述べて、いかにも被抗告人がその場で極悪非道な暴力を振つたかのような印象を与えようとしている。

しかし、右の団体交渉が、そのような暴力的なものではなかつたことは次の事実から明らかである。

県土木部当局は、右の団体交渉に基づいて作成された書面=確認書に基づいて、その履行のために飯塚土木事務所に野村課長補佐を派遣している。このことは、右の団体交渉が正常で、且つ正当な団体交渉の場で行われ、それによつて確認書ができたものであることを、県土木部が自ら認めていることをしめしている。何故ならば、抗告人がいうようにその団体交渉が暴力的なふん囲気の中で行われたものであり、そして確認書が岩辺次長の意に反して作成されたものであつたとすれば、県土木部はその確認事項を履行するために、そのようなふん囲気からときはなたれた三日になつて、野村課長を現地に派遣するなどということは考えられないからである。このことは確認書が岩辺次長の意に反して作成されたものではない、ということを示すのみならず、団体交渉自体が正常に行われたものであることをも示している。

右の団体交渉終了後、県土木部と被抗告人を含む全日自労とは「二度とこのような事態のないようにしましよう」などと笑顔で雑談を交して別れたのである。そしてその際、野村課長補佐は、「支払つた七、五〇〇は各人の賃金額により清算するので組合も協力して下さい」と申し出で、組合はこれを了承してそのための打合わせまで行つた。このことは、七、五〇〇円を全日自労が決して喝取したものではないことを示している。何故ならば、喝取された金額の清算を当局がするはずがなく、従つてそのための具体的な打合わせをする筈がないからである。

なお、交渉の時間が長くなつたのは、県土木部が全日自労の要求に対して誠意のある交渉をしなかつたからである。

2、昭和四一年二月五日飯塚土木事務所における件について

被抗告人ら全日自労組合員は、この日鎮西現場新設の問題について交渉しに行つたが、土木事務所側は全く交渉に応じようとせず、このために多少の混乱は起つたが、その際被抗告人やその他の全日自労組合員が、小川次長に対して暴力を振つた事実はない。

3、川崎ミツエに対する件について

この件についての抗告人の主張は事実とは全く異る。事実は川崎ミツエが被抗告人につきかかつてきたが、被抗告人に避けられたために、力が余つて自ら穴の中に落ち込んだのである。被抗告人のほうから川崎ミツエに暴力を振う動機も原因も全くない。

4、以上述べたように、抗告人の主張するような事実はないのであるが、本件処分が行われた一年又はそれ以上も以前のことを、そしてまた、処分時には処分の理由とされていなかつたと推測されることを、突然処分の理由として主張する抗告人の態度は全く不可解である。これが、本件処分の直接の原因とされている「昭和四二年七月二八日当所(飯塚公共職業安定所の意)においての次長松本好人に対する行為」と、時間的にあるいは場所的に、又はその行為のいきさつ等につき何らかの連続性、関連性があれば格別、そのような連続性、関連性のない全く別の、しかも一年以上のことを持出した抗告人の主張は不当であるといわなければならない。

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